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   地域の中のほっとサロン 「ピアノなお家」  平成17年 3月

     寒さのゆるんだ1月のある朝、宝塚でJRから阪急電車の今津線に
    乗り換えて、仁川駅に到着しました。車窓からは個性的な住宅街が
    広がっていました。
    阪神大震災から10年ということで、昨晩テレビで見たドキュメントの
    なかの被災地の空撮のシーンが頭から離れない。震災で親の命を
    奪われた子供が573人もいるということ、この街にも過酷な運命を
    甘受して逞しく成長したであろう若者はいるのだろうか。
    いろいろな想念が私をとらえるなか、本日は痴呆性高齢者および
    地域住民のほっとステーション、居場所づくり、生きがいづくり、
    そして地域福祉の向上をめざしている「ピアノなお家」を訪ねます。
    ゆとりとくつろぎのほっとステーションとして、毎週火曜日10:00から
    15:00の時間帯でオープンしています。
    暖かな日差しのなか、駅からすぐの広々とした弁天池にそって
    歩き瀟洒な住宅を眺めながらめざす「ピアノなお家」の可愛い看板を
    みつけました。
    前のお庭も結構広くてどなたかの自動車も止っています。
    木造2階建ての玄関をがらがらとあけると賑々しい声が聞こえます。
    代表の荻野さんのにこやかなお顔を見てほっとします。
    初めてお目にかかったと思えない親近感を感じさせるお人柄。
    いざなわれて8畳間程の部屋2つつづきに座卓が3つある端のところに
    落ち着いてお話をお聞きしていますと、利用者のIさんがちらちらと
    私たちのほうを見ています。
    とても気になる様子。
    まずはIさんのお話を聞くことにしました。
    「この近くに引越してきて4年になるの。
    賑やかな十三に住んでいたので最初は寂しく感じました」
    ってところで台所からお手伝いのお呼びがかかります。
    昼食の用意の真っ最中、Iさんは大根おろしがお得意ということです。
    自分に何ができるか、何を果せるかということで、自信を得て喜びや
    安らぎを感じることに、痴呆の症状も穏やかになってくることが多い
    そうです。
    天ぷらのいい匂いがただよってきます。
    早くお話お伺いしようっと。
    「午前の茶話会200円、会食会500円、午後のふれあいサロン300円、
    1日利用1,000円いただいています。その方のペースでゆとりとくつろぎを
    大切に過ごしていただける場になるように心がけています。
    その他金曜サロンや、介護者支援、福祉学習、福祉啓発などの事業も
    準備中です。あいている曜日は地域福祉や子育支援や障害者支援に
    取り組まれる方々の活動拠点になっていけばいいと思っています。
    ちなみに利用料は9時から12時まで1,500円、13時から17時まで2,000円
    です」
    かつては、看護師(士)をなさっていたという荻野さんは、おおらかな
    肝っ玉かあさんというところでしょうか。老女(?)になったら地域の
    なかのどこかのおうちに、自分のお茶碗とお箸があったらいいなぁ、
    誰もがそんなふうになれたらという思いがありました。
    その思いが意外と早く実現しました。
    宝塚市社会福祉協議会やまちづくり協議会を通じて、このお家の
    持ち主の方より何か福祉に使って頂きたいというお申し出があり、
    又福祉に使ってくださいという物品提供や寄付もあり、年間10万円の
    運営費のなかで運営されて現在に至っています。
    この春が来ると「ピアノなお家」も1歳のお誕生日を迎えます。
    隣のサンルームみたいな窓の広い6畳ぐらいのお部屋に移動します。
    2つの女性グループがマージャン卓をかこんでいます。
    まだまだお若そうでパワフルなシニアの方々の華やんだ賑やかさの横に
    ピアノがありました。
    ああ、ここにいらしたんですね。初めて見ました、とてもかわいい
    えんじ色したピアノ。確固たる存在感を漂わせています。
    いろいろな人が集まって奏でるメロディは、この仁川の街にどう響いて
    いくのでしょうか。「ピアノなお家」本当の意味でこれからだと、小さな
    ピアノは語っています。


     国立社会保障・人口問題研究所によると、1人暮らしの「単独世帯」が
    2007年には「標準世帯」よりも多くなるそうだ。「標準世帯」とは
    夫と妻、子供2人の家族を政府は定義づけている。2010年には
    成人人口の過半数が50代以上になり、そして家族による介護能力は
    高齢者1人に対して2005年には、0.77人になりそうだと、どこかの
    研究所は試算している。
    非婚、離婚、少子化、高齢化などで、家族の形は急速に変貌を
    とげている。
    東京大学大学院研究科教授の上野千鶴子氏は、20世紀は家族の
    世紀だったと、そして今まさに終ろうとしていると。
    『家族を容れるハコ家族を超えるハコ』著書のなかでこう述べている。
    「血縁でもなく地縁でもなく社縁でもなく、脱血縁・脱地縁・脱社縁の
    人間関係をわたしは“選択縁”と名づけたが、その核心は加入も脱会も
    自由なこと。
    選択縁とは、ひとつの縁での失敗が全人格の否定にならずにすむ、
    アイデンティティの危機管理方式でもある」
    「ピアノなお家」は住み慣れた地域で暮らすという思いだけをかなえる
    のではなく、高齢化の単独を基本にした社会システム構築の入口で
    あったり、予行演習の場にはなりはしないか。


     「お昼ごはんですよ」周りががやがやしています。
    スタッフやボランティアの人達がほんとうに楽しそうに、3つの座卓に
    海老や野菜たっぷりの天ぷらと釜揚げうどんを並べています。
    先ほどのIさんも上気したお顔でお箸を並べています。
    私たちもご馳走になり、総勢18名で昼食をご一緒します。
    Iさんとは、もうお友達みたいになってお隣同士、「おいしいねぇ、
    おとうさんは今日は風邪をひいて家で寝ているの、こんなにおいしい
    のに。このあとみんな将棋しはんねん、する?おとうさんは、好きや
    ねん」
    Iさんとおしゃべりをしながら、集団よりも少人数の雰囲気の中で
    その人に寄り添ったケアが、こんなにもやすらぎと落ち着きを与える
    のだということが実感される。
    家族の介護力だけでは、最早どうにもならぬ。阪神大震災後の神戸市が
    1人では安心して暮せないという高齢者向けに共同住宅を建てたのを
    ひとつの契機に、「非家族」同居の住まいが各地にでき始めていると
    聞く。住み慣れた地域で暮らす、それを実現するには「住民力」
    が不可欠だろう。
    「ピアノなお家」が住民力を培う先陣的存在であることを願って
    やみません。所有者や運営委員やボランティアの方々の、熱い思いと
    実践にエールをおくります。
    とても心豊になり充実した時間を過ごせて胸がいっぱいです。
    おいしい昼食もいただきお腹もいっぱいになりました。


          秋 田 佳 津



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