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 まぼろしの晩餐会    平成14年 6月

満月皎々と冴えわたる深き夜、久々に晩餐会を開きました。
お客様は、幽明堺を異にするやんごとなき方々。
正客は、今年千百年忌であられる菅原道真様。
曹洞宗開祖道元禅師も本年七百五十回大遠忌。
隣にお座り頂きますように。
もうひとかたのお客様は、イタリアから招聘したリチャードジノリ公爵。
二〇〇二年に生誕三〇〇年を迎えます。

あまりのお暦々に恐れおののき、私は台所で盗み酒をしてから
皆様なごやかにご歓談されている場に赴きます。

「天神様、天神様が主人公の能作品
『管丞相』大阪天満宮に寄進されました。
思いの強さで黒髪が一夜のうちに変じた白がしら
恨みと師への敬いとの間で揺れ動く人間としての苦悩ののち
天下泰平を招来される。
感動のひとときでした。

文楽は『菅原伝授手習鑑』全段通しの上演は六年ぶりだそうで
抑えた動きの中に悲しみや無念を表現する伝統芸能の見事さ
感服いたしました」

突然、ジノリ公爵は静謐と情熱のバランスのもっておっしゃいました。
「伝統を守りつつ革新的にとらえる」
ジノリ公爵様の鋭い経済センスと芸術的探求は追随を許さない。
「夢があるから挑戦する」
天神様はやおら
「落つる涙は百千行、万事はみな夢のごとし」
と、おっしゃいました。

話が混迷としてきた、昨今の世相のごとくか美酒の酔いか
三人の会話はよどみなく続く。
蒙味なる我はおいてきぼりながら、かぼそき声でお伺いしました。

「昨今の霧散されし義理人情。
殺伐とした世界情勢のなか
人はどう生きたらいいのでしょうか」

道元禅師のたまう
「今ここに。今を生ききる」
生きるとはどういうことか。

己が全身でその問いにぶつかるしかないのか。
千年前も今も累々と変わらない。


          秋 田 佳 津

   
         


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